掃除をしていると、何やら騒がしい声がした。
「きゃーー!!」
「アオイさんをはなせ!」
炭治郎くん?
声のする方へ行ってみると、炭治郎くんたちが、アオイちゃんを担いだ天元さんを囲んでいた。
何やらピリピリとした雰囲気で声をかけるのも憚られる。
「あ?なんだなまえか」
「なまえさん?」
じーっと見ているのを気付かれて、天元さんや善逸くんたちみんなが一斉にこちらを向く。
なんだか気まずくて、こんにちはー、と間抜けな挨拶しかできなかった。
「悪ぃ、騒がしくしたな」
「あ、いえいえ、通りかかったら声がしたので様子を見に来ただけです」
「そうか。元気か?なまえ」
「?見ての通り元気です」
そう言うと天元さんは私の頭をわしゃわしゃと撫でた。
この大きな手で撫でられるのが、私はなんだか安心して好きだったりする。
「あ、天元さん、アオイちゃん降ろしてあげてくださいよ」
「あぁ?あー、ほらよ」
「投げない!」
「・・・ちっ」
なんでそんなに雑なんですか、と問うと、うるせぇな、と悪態を吐くので、ちょっと説教してやった。
そんなやり取りを見ていた周りを代表してか、善逸くんがゆっくり挙手をした。
「あのー・・・」
「ん?なに善逸くん」
「なまえさんと、その人って、知り合い・・・?」
そういえば、善逸くんの前で天元さんの話をしたことなかったっけ。
ふと天元さんの方を見やると、なるほどねぇ、と何やら意味あり気に呟いていた。こういうときは、良からぬことを考えている。
そっと傍を離れようとすると、天元さんの長い腕が腰に伸びてきて、ぐっと引き寄せられた。
「あっ!」
「ひゃっ!ちょ、なんですか急に!」
ニヤニヤと楽しそうな天元さんとは正反対に、目の前の善逸くんは顔を真っ赤にしたり真っ青にしたりしている。
「俺となまえの関係が気になるか?」
「はぁ!?あ、アンタ何言って・・・!」
「そうですよ天元さん!急にどうしたんですか?」
「照れんなよ。同じ屋根の下で暮らしたもん同士だろ?」
「んなっ!」
「ちょっと変な言い方しないでくださいよ!」
なんとか天元さんの腕から逃れると、口をぱくぱくさせている善逸くんに、一時期保護してもらっていた恩人だと説明する。
こんなに必死に説明する必要ないかもしれないけど。
どうやら少し理解してくれたらしい善逸くんは、聞くところによると天元さんたちと任務に向かうところだったらしい。
邪魔してしまったことに申し訳なさを感じていると、また天元さんが頭をポンポンと叩いて、気にすんな、と言ってくれた。
こういうフォローはさすがだ。
「善逸くんも、気を付けてね」
「ありがとう!行ってくるね!」
そう言って手を振る善逸くんに、手を振り返す。
何事もなければいいと、私には祈ることしかできなかった。
「お前、なまえに惚れてんのか?」
「はっ?アンタに関係ないだろ?」
「ある。俺はあいつの保護者代わりだからな。あいつを死ぬ気で幸せにするつもりがあるヤツじゃないと、俺は認めないぜ」
「・・・」
「今のお前に、その覚悟があるのか?」
「・・・」
「あるなら、これから何があっても死ぬな。絶対に生きろ。分かってるな」
「・・・言われなくても」
あの後、こんな会話がされていたことを、私は知る由もなかった。